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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)8号 判決 1966年2月25日

原告 金元植

被告 国

代理人 荒井真治 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一、原告が、その主張するような損害賠償請求の訴を提起し、右事件が事件裁判所に昭和三七年(ワ)第二六六〇号事件として係属審理されたこと、事件裁判所を構成した裁判官が、豊水道祐、土田勇および真田順司の三名であつたこと、右訴訟事件において、原告が訴外山口日米代、同水町四郎外八名の証人尋問を申請したが、右裁判所は右山口証人のみを採用し、右水町外八名の証人申請を却下したこと、事件裁判所が昭和三八年五月二七日、右事件の口頭弁論を終結し、同年六月二六日、その判決の言渡期日を同年八月二九日午前一〇時と指定したこと、原告が右証人申請の却下決定および弁論終結決定を不服とし、その主張する日にそれぞれその主張するような抗告および特別抗告の申立をしたこと、そして原告は右特別抗告が最高裁判所に係属中である同年七月一九日事件裁判所に判決言渡期日の延期の申請をしたこと、しかし事件裁判所が右延期申請を容れず同月二九日原告敗訴の判決の言渡しをし、その判決正本が七月三一日原告に送達されたこと、原告が右判決に対し所定の期間内に控訴しなかつたので、右判決が確定したこと、同年九月一〇日前記特別抗告も却下されたことは当事者間に争いがない。

二、原告第一に事件裁判所がした証拠の申出を却下した行為が違法であると主張する。しかし、我国の民事訴訟法の下では証拠申出の却下が違法な場合には、当事者は、当該事件の終局の裁判に対する上訴により不服申立をなして、これに対する救済を受けることができ、又その方法によつてのみ救済を受けることが許されるのを原則とし、右のような方法で不服申立をしないまま、終局裁判が確定してしまつた場合に当該事件の裁判官のなした証拠申出却下の措置ないし終局の裁判が違法であると主張して民法の不法行為もしくは国家賠償法第一条の損害賠償責任を追求することは、我国の法制上認められていないといわなければならない。

けだし、我国の裁判がいわゆる三審制をとり、裁判官の独立が憲法上認められていることからすれば、一つの裁判所が他の裁判所のした証拠申出却下の措置の当否を、有権的に判断できるのは前者の裁判所が当該事件につき後者の裁判所の上訴裁判所である場合に限られるのが原則であつて、右裁判所以外の裁判所が当該事案の審理を担当した裁判所の認定ないし判断に優位する判断をなし、右裁判所の措置を違法と断定することはできないというべきである。もつとも例外として、当該裁判官が当事者に対し明白な害意をもつて右措置に出でた場合で、しかも当事者が故意過失なくして上訴の方法により損害を除去できなかつた場合には、新に損害賠償の訴を提起して損害の回復を求めることは許されよう。これを本件について見ると、事件裁判所が原告の証人申請を却下した措置が違法であるかどうかはさておき、本件訴訟は右事件の上訴審ではないことが明らかであるから、前記の原則により別訴である本件において、右措置の違法を主張しえないものであるばかりか、事件裁判所を構成する裁判官が原告に対し明白な害意を抱いていたことの主張立証もないし、原告は終局判決に対し控訴できることを知りながら、敢えて控訴しなかつたことを自認しているのであるから、前記の例外の場合にもあたらず、結局原告において、前記証人申請却下の措置が違法であると主張することは許されないものである。

次に原告は、事件裁判所が原告のした判決言渡延期申請を無視して判決を言渡したのは違法であると主張しているが、期日の変更は、原則として裁判所の裁量に委ねられていて、右申請の許否についての裁判に対しては不服の申立を許されず、事件裁判所が原告の右申請に応じなかつたとしても何ら違法でなく、これに基づく終局判決に対しては、前記と同様に上訴の手続により救済を求めるべきである。しかして原告が、控訴する機会を客観的に制約されたわけでもないことは原告の主張自体からも明白であるから、何ら違法な事実を包含しない原告の右主張事実の失当であることはもちろんである。

よつて、原告の本訴請求は、その余の主張について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石原辰次郎 秋元隆男 鬼頭季郎)

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